[よし、視線を合わせてみよう]

 思わず君は視線を合わせてしまった。 「は、はろー…」  つまらない挨拶だと君は軽い自己嫌悪に陥ったが、『悪魔』の少年は嬉しそうに瞳 を輝かせているではないか。どうやら一日中箱の中に入っていたようでハナミズを拭 いたティッシュで箱の中が一杯になっている。
時折タコ焼屋のおばちゃんがくれたで あろうタコ焼の容器が一緒になっているし、ごみ箱と勘違いして捨てられたのか空き 缶も結構な数だけ入っている。
あるいはそもそもその箱が空き缶用の箱ではなかった のかという推測を立てつつ君はもう一度『悪魔』を見た。
 むう、見れば見るほどの美少年である。知り合いの同人作家が評するならば、中性 的な容姿に加えサディズムと母性本能をくすぐる典型的な「受け専」な顔立ちであり 成長するのが惜しまれるといったところだろうか。 「坊や、帰るところは?」  瞳一杯に涙を溜めた『悪魔』は首を横に振る。食料ならばいざとなれば下宿の大家 や友人や研究室にでも顔を出して手に入れればいい、こんな寒空に放置しておくこと は人間として許せないような気がした君は『悪魔』を連れて下宿に戻ることにした。

・さあ、下宿だ