すまない、少年。おにーさんは弱い人間なんだ、社会の矛盾を拳で打ち砕くほどの
腕力はないしこの腐った世界を建て直すだけの知力もないんだよ。怨むならば腐った
世の中と君を捨てた飼い主にしておくれ、俺には関係無いんだよ。
そんなことを胸中に呟きつつ君はその場を立ち去ろうとした。
が。
何かに足を掴まれて君は派手に転倒した。
痛む鼻頭を押さえつつ振り返れば『悪魔 』の少年が必死にしがみついているではないか。
君の全身に降り注がれる冷たい視線 、視線、視線。少年は瞳を潤ませつつ何か最後の希望を託すように君の瞳を見つめて
いる。
これが全裸の美女ならば男として理性もかなぐり捨て一線を越えるところだろ
うが相手は少年であり、翼や尻尾を見るならばどのように考えても悪魔である。
残念 ながらお稚児趣味の無い君だが、人としての道理を重んじる精神の持ち主でもあった
。
何か大きなものを諦めるような気持ちで君は息を吐くと少年に向かい合った。
「…坊や、俺の部屋に来るか?」 「はいっ。」 至極嬉しそうに悪魔の少年は頷いた。周りの観衆はおおーっと声を上げつつ拍手な
ぞしている。
そんな余裕があるならば自分で拾えと悪態をつきつつ君は悪魔の少年を
連れて下宿に戻ることにした、いざとなれば下宿の大家や友人、果ては研究室に連れ
込んで食料を分けて貰えばいい。