君の拳が『天使』の顔面に炸裂する。
普段ならば○○○○とはいえ 女性を殴るなど言語道断の君だったが、面妖な事をしでかす相手に容赦はしなかった。
無論、普段の 君は非暴力主義者だし非政府主義者でもない平凡な小市民だ。
しかし東西冷戦の終結によって絶対的な脅威と宿敵を失ったハリウッドが怒りの対象を宇宙人に選んだよう
に、とりあえず訳の分からないものならば何をしてもOKという小市民的貧弱な発想と
、本能的に感じた恐怖によって君は見事な左フックを決めた。
「おおおおお」
ざわめく観衆、つまるところ『天使』の異様な姿に気付いていながらも黙っていた連中が驚嘆の声を上げた。
だがそれは君の放った左フック(ナワテ商店街のチビッコ
くらいの相手ならば制覇出来るかもしれない威力)ではなく、それを首の動き一つで
あっさりとかわしていた『天使』の動きによるものだった。
むむ、この動き。
一切の無駄の無いその動作は世界を制するほどの華麗さがあり同時に面妖きわまり
ない。
『天使』は呆然とする君の右手から魔法のような手つきで携帯電話を取り上げ
るとすぐ近くに流れる女鳥羽川に放り投げた、ちゃぽんと言う情けない音と共に携帯
電話は浅い川底に沈み餌と勘違いした水鳥達が一心不乱についばんでくる。
「駄目だよ、お嬢ちゃん。川にゴミ捨てちゃ」
「すいませーん」 タコ焼屋のおばちゃんに指摘されたためか『天使』はそちらに頭を下げると、何処に隠し持っていたのか安っぽい玩具のステッキを取り出すと川に向けた。
すると電子 部品を撒き散らし修復不能となった携帯電話が川底から飛び出して近くの不燃物用の
ゴミ箱に吸い込まれた。