とにかく金が無い。
餅の無い正月など傘地蔵の正直爺さんも真っ青の貧困ではない
かと思いつつ君は家路を急いだ。
「…拾ってくださぁい」 消え入りそうな、何とも情けない少年の声に君はふと足を止めた。
声の主を捜し辺 りを見渡せば、神社の鳥居の下に一人の『悪魔』が段ボール箱に入っている。
一緒に 箱の中にいた猫や犬は親切そうな老婦人や好奇心旺盛な小学生に拾われていくが、さ
すがに蝙蝠の翼が生えた少年を衝動的に拾う人間はいない。
鳥居の周りには風を遮る ものもなく時折強く吹く北風に悪魔の少年は歯をガチガチと震わせ涙目を浮かべてい
る。ある種の趣味を持ったおねーさんやおぢさんならば黙ってはいない容姿だが、残
念ながら君にはそのような趣味はない。
そもそも何故捨てられているのだろう、警察は何をしているのだろうと君は妙に理
性的な思考を働かせてみた。
それが現実を逃避し事態を先送りするための方便に過ぎ ないことは君自身が一番知っている、何故なら悪魔の少年は先程から君にぢぃーっと
視線を向けたままなのだから。